【関連コラム】
・フリーランス保護法に対応すべき事業者とは?
・フリーランス保護法における報酬の支払期日の設定と支払義務
・フリーランス保護法における禁止事項とやるべき事項
フリーランス保護法の対象となる業務委託をしようとする委託元事業者は、委託先に対して書面等をもって取引条件を明示する義務があります。
法律の第3条で定められているため「3条通知」と言ったりします。
※フリーランス保護法の対象となるか否かは前回のコラムのチャートを使ってみください。
この取引条件明示義務とはどのような内容でしょうか?
取引条件の通知(ひな形)
通知のひな形はこちらです。
細かなルールがあるためあくまでも一例です。(個別の項目についてあとで説明します)
※自己利用は可能です。
自己利用を超える複製・印刷・配布・加工等(第三者へのアドバイザリー目的を含む。)はおやめください。
正確性・完全性は担保しません。自己責任でご利用ください。適宜修正・改善をしていく予定です。
2024/10/31追記
厚労省WEBサイト(フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ |厚生労働省)に、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が公開され、別添資料に契約書例が公開されています。参考になると思われます。
通知は、紙以外でもOK!
この通知は書面等で行うこととされています。
口頭で伝えたというだけではダメです。
具体的には以下の方法が可能とされています。
・書面(紙)の交付 ・FAX送信(これは「書面」に含まれます。) ・電子メール ・SMS(ショートメッセージ) ・SNSのメッセージ機能(※1) |
※取引条件を明示しているウェブページがある場合、そのページURLを掲載してもOK
※1:タイムラインで投稿したではダメで、DMのような送信者が受信者を特定して送信するものでないといけません。
なお、書面以外の方法で通知した場合、フリーランスが書面での通知を求めた場合は原則書面で通知を行わなければならないとされています。
通知のタイミング
通知のタイミングは「業務委託をした場合は、直ちに、」とされています(法3条1項)。
かみ砕いていえば、業務委託をすることについて合意したときにすぐに、ということです。
基本的には委託した業務が終わってからではダメで、委託元は委託したらすぐに上記の通知を行う必要があります。
通知すべき取引条件
3条通知で明示すべき事項(「明示事項」といったりします。)は以下のとおりです
・委託者・受託者(フリーランス)の商号・氏名・名称等 ・業務委託をした日(=業務委託について合意した日) ・フリーランスが行う給付内容(業務委託の内容) ・フリーランスの給付を受ける日(納品日)・役務提供を受ける日(サービスを受ける日・期間) ・フリーランスの給付の場所(納品場所)又は役務提供を受ける場所(サービスを行う場所) ・給付の内容(納品物)の検査をする場合は検査完了期日 ・報酬の額(やむを得ない場合は計算方法)・報酬の支払期日 ※報酬が金銭でない場合は、一定の必要事項 ・再委託である場合に明示することができる事項 |
合意時に決まっていない事項はどうする?(未定事項)
法律では、3条通知のときまでに決まっていない事項(未定事項といいます。)まで無理やり定める必要はないとしています。
ただし、未定事項について制限を課さないと、「なんでも未定事項とすればいい」ということで3条通知の意味がないことになってしまうので、「業務委託の性質上、業務委託をした時点では当該事項の内容について決定することができないと客観的に認められる理由がある場合」(正当な理由)である必要があるとされています。
なお、報酬についてはガイドライン上で、報酬の額として算定方法を明示できるときは、報酬の額を未定事項とすることはできないとされています。
未定事項があるときは、その内容が定められない理由と未定事項の内容を定めることとなる予定期日を当初の明示として(つまり3条通知のなかで)明示しなければならないとされています。
そして、委託者は未定事項について、フリーランスと十分に協議したうえで、速やかに定めなければならず、定めた後は、直ちに、未定事項をフリーランスに明示しなくてはならないとされています。
共通事項がある場合の明示方法
これは取引基本契約書のようなものです。
同じような業務委託を何度も委託するような場合、共通する事項を毎回通知することは面倒です。
そのため、共通する事項を予め書面又は電磁的方法で通知していれば、都度の明示を行わなくてもよいとされています(共通事項に含まれない個別事項は都度の通知が必要です。)。
注意点としては、個別の委託の際に行う3条通知において、予め明示した共通事項との関連性(結びつき)を示さなければなりません。
これは、個別通知に「その他の事項については、2024年11月1日『共通事項通知書』に記載のとおりです。ただし、同通知とこの通知に記載されている事項が矛盾抵触するときは、この通知の記載事項が優先します。」というようなことを書いておけば大丈夫だと思われます。
再委託先の場合の報酬支払時期の延長特例
委託者が受託者でもある場合もあります。
つまり、元委託者→委託者→フリーランスという流れで、委託者がフリーランスに再委託しているようなケースです。
このケースは、多くの場合、①元委託者が委託者に報酬を支払い、②そこから委託者がフリーランスに再委託報酬を払うという流れになります。
委託者が①を受け取る前に、②の委託者からフリーランスへの再委託報酬を先払いするのは、委託者のキャッシュフローが厳しくなる可能性もあります。
そのため、委託者が再委託を行う場合、一定の事項を明示することで②報酬の支払時期を延長することができます。
どういうことかというと、次回の先取りになりますが、フリーランス保護法において、報酬の支払時期は、成果物や役務を受領した日から60日以内とする必要があるとされています。
そうすると、委託者は、①を受け取る前に②を支払う必要が出てきてしまうため、再委託の場合には以下の事項を明示することで、支払時期を「元委託者」から元委託業務の対価の支払いを受ける日から起算して30日以内までの日とすることができます。
明示すべき事項は以下のとおりです。
・再委託である旨 ・元委託者の商号・氏名・名称等 ・元委託業務の対価の支払期日 |
おわりに
3条通知は、フリーランスが特定業務受託事業者(従業員を雇用していない個人や法人)に該当した場合、委託者がどのような者であっても行う必要があるとされています。
少し長くなりましたが今後フリーランスに業務委託を行おうとする場合には必須となりますので、十分に理解することをお勧めします。
執筆者:弁護士 松坂拓也
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