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フリーランス保護法(4条・5条)では、報酬の支払期日の設定義務と期日内支払義務を課しています。
特定業務委託事業者(簡潔に言えば委託者が従業員を雇用していたり、役員が2名以上いたりする場合)に該当すると、この義務が課されるのですが、これを間違えると大きな問題となりかねません。
規制の概要
この規制の該当を簡潔に述べると、報酬の支払いを、成果物を受領を受けた日を1日目として60日以内(運用上は2ヶ月以内)にしなければならないというものです。
また、報酬支払期日を「60日以内とする」という定め方は認められず、「2024年11月29日」「毎月末日締め翌月25日支払」という期日設定をしないといけないとされています。
ただし、前回コラムでも触れたように再委託の場合には一定の延長が認められています。
支払期日を定めることの義務化
上記のように支払期日を60日以内としなければなりません。
厳密には、給付を受領した日から起算して60日以内(給付を受領した日を算入する。=この日を1日目と数えます。)のできる限り短い期間で支払期日を定める義務があります。
なお、一定の事項を明示して再委託をした場合には、特定業務委託事業者(委託者)は、元委託者から受領する報酬の支払期日から起算して30日以内(元委託支払期日を算入する。)のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めることができるとされています。
いずれの場合も「2024年11月29日」「毎月末日締め翌月25日支払」という期日設定をする必要があることに注意です。
給付を受領した日から起算して60日目とは、2024年11月1日を給付受領日とした場合、2024年12月30日になります。
なお、毎月の特定日に金融機関を利用して支払うとしている場合、実際の支払日が金融機関の休業日に当たる場合には、支払を順延する期間が2日以内であれば60日以内とみなされます。ただ、その場合この取り扱いを合意しておく必要はあります。
給付を受領した日(役務提供以外)
「給付を受領した日」が期日算定のスタートの日となりますが、業務委託の中身によってその考え方が変わります。まずは役務提供以外の2類型について見てみましょう。
一つ目が物品の製造を委託した場合です。
この場合、「給付を受領した日」とは、委託者がフリーランスから目的物(成果物)を受け取り自身の占有化に置いた日を指します。
成果物の検査・検収ということをする場合であっても、この検査・検収期間は関係ありません。
契約書では検査・検収の完了日が引渡日となるという定めもありますが、これは無視して実際に受け取った日が「受領した日」となります。
次に情報成果物の作成を委託した場合です。
これはデータ(デザインデータや動画・音声データ、プログラミングデータなど)が成果物であるケースです。
CD-RやUSBといったデータを記録した媒体で受領するケースもあれば、電子メールやクラウド等で納品を受けるケースもあります。
実在する媒体で納品を受ける場合には、この媒体を受け取り自己の占有下においた日が受領日となります。
実在するの媒体でない方法(電子メールやクラウド等)で納品を受ける場合には、委託者の電子計算機内に記録されたときが受領日となります。
役務提供した日
一定の役務(サービス)の提供についても業務委託という枠にくくられます。カメラマンの撮影業務、声優のアテレコ、芸能人が受けた広告案件のSNS投稿、運送業務や、事務処理系の業務、士業の提供するサービスの多くや、コンサルティングやアドバイザリー業務も役務提供に入ります。
役務提供の場合「給付を受領した日」とは、原則、個々の役務提供を受けた日を指します。
運送業務をフリーランスに依頼した場合、1個1個の運送業務がなされる日ごとが「給付を受領した日」になるわけです。
役務提供に一定の期間を要する場合(弁護士が裁判紛争を受任した場合など)、一連の役務の提供が終了した日が役務提供を受けた日となります。
ただ、役務提供の場合、一定の締日を設定し、締日から●日以内に報酬を支払うというケースがあります。「毎月末締め翌月末日払い」というようなのがこのケースです。
これは原則に則ると個々の役務提供があった日から60日以内に支払いをしないといけないのですが、実体に即していないため、次の①~③の要件を満たせば月単位で設定された締め切り対象期間の末日に役務提供があった(締日が受領日となる)という取り扱いが認められています。
①フリーランスとの協議のうえ、月単位で設定される締切対象期間の末日までに提供した役務に対して行われることが予め合意され、これが3条通知に書いてあること。 ②3条通知に、当該期間の報酬額・報酬の算定式が明確に記載されていること。 ③フリーランスが連続して提供する役務が同種のものであること。 |
再委託の場合の特例
委託者がフリーランスに業務委託している内容が、元委託先のある再委託であることがあります。
つまり、委託者が受託者でもある場合です。
元委託者→委託者→フリーランスというイメージです。
このケースは、多くの場合、①元委託者が委託者に報酬を支払い、②そこから委託者がフリーランスに再委託報酬を払うという流れになります。
委託者が①を受け取る前に、②の委託者からフリーランスへの再委託報酬を先払いするのは、委託者の資金繰りが厳しくなってしまう可能性があり、その結果委託者が受託を控えることで、結果としてフリーランスが受注できないという不都合が生じる懸念がありました。
そのため、委託者が再委託を行う場合、一定の事項を明示することで②報酬の支払期日を、「元委託者」から元委託業務の対価の支払いを受ける日から起算して30日以内までの日とすることが認められています。
これによって、給付を受領した日から60日を超える日に設定することができ、かつ①元委託者からの報酬を受領してから支払いを受けることができるようになります。
明示すべき事項は以下のとおりです。
・再委託である旨 ・元委託者の商号・氏名・名称等 ・元委託業務の対価の支払期日 |
支払期日での支払義務/支払期日を定めなかったときの支払期日
委託者には、支払期日までに支払いをする義務があります(法4条1項・5項)。
そのため、支払期日を定めたときは、その支払期日までに支払いをする必要があります。
では、支払期日を定めなかった・支払期日が法律違反だったときはどうなるでしょうか。
この場合は、法律によって支払期日が定められます。
原則として、まず、支払期日を定めなかったときは給付を受領した日が支払期日となります。
支払期日は定めたが法律に違反するものであったとき(給付受領日から起算して60日を超えて支払期日を定めたとき)は、給付を受領した日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日となります。
再委託の場合は、まず、支払期日を定めなかったときは、元委託支払期日が支払期日となります。
そして、支払期日は定めたが法律に違反するものであったとき(元委託支払期日から起算して30日を超えて支払期日を定めたとき)は、元委託支払期日から起算して30日を経過した日の前日が支払期日となります。
注意が必要なのは、再委託の特例の場合に明示すべき事項を明示できるのに明示していないときは、大原則に戻って給付を受領した日から起算して60日を経過する日が支払期日となります。
やり直しをさせる場合
フリーランスから成果物の納品を受けた後、その内容が業務委託時に合意した内容と異なることから、やり直しをさせるというケースがあります。
やり直しが法的に適切である場合、やり直しをさせた後の成果物の受領日(役務提供の場合は役務提供日)が支払期日の起算点となります。
(以下はマニアックな法解釈についてのコラムですので読み飛ばしてもらって大丈夫です。)
法4条5項本文では、報酬の支払期日を定めた場合等には支払期日までに報酬を支払わなければならないと定めています。やり直しをする場合とは、既に3条通知を発しているはずですので、支払期日が設定されているはずです。
上記に従うと、やり直しが発生した場合でも、支払期日までに報酬を支払わなければならないとされるように思います。
パブリックコメント2-2-13では、納期までに納品が無かった場合の取り扱いについて記載していますが、委託者は「実際に給付を受領した日が遅くなった場合には、実際に給付を受領した日から起算して60 日以内のできる限り短い期間内において、報酬の支払期日を定めて、支払う必要があります」とだけ書いてあります。パブリックコメントにはこのような取り扱いできる法的根拠の記載がないまま結論が書かれています。
同項但書には「特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったときは、当該事由が消滅した日から起算して六十日(第三項の場合にあっては、三十日)以内に報酬を支払わなければならない。」とあり、これが根拠のような気もしますが、ハッキリと根拠を書いてほしいと思います。
フリーランスの帰責により支払うことができないとき
「委託者は振込処理をしたのに、フリーランスのミスによって支払先の銀行口座の番号が間違っていて支払えなかった」というようなフリーランス側の事情で支払いができないというケースも考えられます。
その場合には、支払いの障害となっている事由が消滅した日(上記例だと、正しい口座番号が通知された日)から起算して60日以内(再委託の場合で要件が充足されているときは30日以内)に支払うものとされています(法4条5項)。
再委託の場合の適切な配慮
再委託の場合には、一定の要件を満たせば元委託支払期日から起算して30日を経過した日の前日が支払期日となります。
この場合であっても、委託者が元委託者から前払い金の支払いを受けているときは、フリーランスに対して業務に必要な費用(資材の調達費用等)を前払金として支払うよう適切な配慮をすることとされています(法4条6項)。
これは報酬が後払いのとき、フリーランスは自らが支出した費用を長期にわたって負担していることになるため配慮する必要があり、かつ元委託者から委託者が前払金を受け取っていればフリーランスの負担を軽減するために前払金の適切な分配をしても委託者にとって過度な負担は生じないことから規定されました。
執筆者:弁護士 松坂拓也
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